それは仕事の繁忙期がようやく落ち着いたある週末の夜のことでした。風呂上がりに首をマッサージしていた私は、右側の耳の下あたりに、ビー玉ほどの大きさの硬いしこりがあることに気づきました。触っても痛みはなく、皮膚の色も変わっていませんでしたが、その「石のような硬さ」に心臓が激しく脈打つのを感じ、その晩は一睡もできずにインターネットで「首のしこり 何科」と検索し続けました。ネットの情報は不安を煽るものばかりで、癌ではないか、悪性リンパ腫ではないかと最悪の事態を想像しては絶望的な気分になりました。週明け、私は迷わず近所で評判の良い耳鼻咽喉科を受診しました。待合室では子供たちに混じって一人、深刻な顔で座っている自分に違和感がありましたが、診察室に入ると医師は私の話を丁寧に聞いてくれ、すぐに首の触診を始めました。医師はしこりの動きや硬さを確認した後、「まずは中を見てみましょう」と言い、細いファイバースコープを鼻から通しました。喉の奥に隠れた病変がないかを確認するためだそうです。その後、ゼリーを首に塗って超音波エコー検査を行いました。モニターに映し出された私のしこりは、素人目にも不気味な黒い影に見えましたが、医師は「リンパ節の構造は保たれているようですが、念のために大きい病院で細胞を調べてもらいましょう」と静かに告げました。その瞬間に足の力が抜けそうになりましたが、すぐに紹介状を書いてもらい、翌日には総合病院の頭頸部外科へと向かいました。総合病院では、しこりに細い針を刺して細胞を採取する穿刺吸引細胞診という検査を受けました。結果が出るまでの二週間、私は気が気ではありませんでしたが、最終的な診断は「反応性リンパ節腫脹」という、過去の感染や過労による一時的な反応であることがわかりました。癌ではないとわかった時、あんなに重かった首のしこりが、急に小さくなったように感じられたのを覚えています。今回の体験で痛感したのは、自分の体に対する知識のなさと、専門医を頼ることの重要性です。もしあのまま病院に行かずに悩み続けていたら、ストレスで別の病気になっていたかもしれません。耳鼻咽喉科という選択肢は、最初はピンときませんでしたが、首の専門家がそこにいると知ったことは大きな財産となりました。首のしこりは、目に見えないところで体が発しているSOSかもしれません。それを独りで抱え込まず、プロの目と機械による診断に委ねる勇気こそが、私たち大人の責任なのだと深く学びました。