まぶたが赤く腫れて、ズキズキと痛む。関西地方を中心に「めばちこ」と呼ばれるこの症状は、多くの人が一度は経験する身近な目のトラブルです。標準和名では「麦粒腫(ばくりゅうしゅ)」と言い、その名の通り、まるで麦の粒のような膿の点が現れることがあります。「ものもらい」という俗称で呼ばれることもありますが、その名前の印象とは裏腹に、他人から「もらう(うつる)」病気ではありません。では、この厄介なめばちこは、一体何が原因で起こるのでしょうか。その主な原因は、私たちの皮膚や鼻の粘膜、髪の毛などに普段から存在している「常在菌」による細菌感染です。原因菌として最も多いのが、「黄色ブドウ球菌」です。この菌は、健康な人の体にも普通に存在しており、普段は特に悪さをすることはありません。しかし、何らかのきっかけで、この菌がまぶたにある小さな分泌腺に侵入し、増殖を始めると、炎症を引き起こし、めばちこを発症するのです。私たちのまぶたの縁には、まつ毛の根元を中心に、汗を出す「モル腺」や、皮脂を出す「ツァイス腺」、そして涙の油分を分泌する「マイボーム腺」といった、目に見えないほど小さな腺がたくさん存在しています。めばちこは、これらの腺が細菌感染の舞台となる、いわば「まぶたのニキビ」や「おでき」のようなものなのです。では、なぜ普段は無害な常在菌が、突然悪さをするのでしょうか。その引き金となるのが、「免疫力の低下」と「不衛生な環境」です。例えば、過労やストレス、睡眠不足、あるいは風邪などで体の抵抗力が落ちていると、細菌が繁殖しやすくなります。また、汚れた手で目をこすったり、清潔でないコンタクトレンズを使用したり、アイメイクをしっかりと落とさずに寝てしまったりといった行為は、細菌をまぶたの腺に直接運び込む原因となります。このように、めばちこの原因は、外部から特殊な菌がやってくるのではなく、自分自身の体調管理や、日常の衛生習慣が大きく関わっているのです。

手足口病はプールでうつる?夏の感染対策の真実

夏になると、子供たちの間で流行する手足口病。保育園や幼稚園で流行の知らせを聞くと、多くの保護者の方が「プールに入れても大丈夫?」「プールで他の子にうつしたり、うつされたりしない?」と、心配になることでしょう。プールは、多くの子供たちが肌を触れ合わせ、水を共有する場所なだけに、感染のリスクが気になるのは当然です。結論から言うと、手足口病がプールの水を介して感染する可能性は、ゼロではありませんが、極めて低いと考えられています。手足口病の主な感染経路は、咳やくしゃみに含まれるウイルスを吸い込む「飛沫感染」と、ウイルスが付着した手で口や鼻に触れる「接触感染」です。プールの水は、法律で定められた基準に基づき、塩素によって適切に消毒されています。手足口病の原因となるエンテロウイルスやコクサッキーウイルスは、この塩素に対して抵抗力が比較的弱いとされており、適切に管理されたプールの水中では、感染力を失うと考えられています。したがって、「プールの水を飲んだから、うつった」というような、水を介した感染のリスクは、過度に心配する必要はないでしょう。しかし、ここで注意しなければならないのは、プールの「水の中」ではなく、「水の外」での感染リスクです。プールサイドでの子供同士の会話や咳、くしゃみによる「飛沫感染」。そして、より重要なのが、ビート板や浮き輪、ドアノブ、ロッカーといった、皆が共有する物品を介した「接触感染」です。感染している子供が、鼻水や唾液のついた手でこれらの物品に触れ、それを別の子供が触り、さらにその手で自分の口や鼻に触れてしまうことで、ウイルスが体内に侵入する可能性があります。また、プールで使う「タオルの共用」も、非常に危険な感染経路となります。つまり、手足口病の感染対策において、プール自体を過剰に恐れる必要はありませんが、プールという「集団生活の場」における、一般的な感染対策(咳エチケット、接触感染対策)が、他の場所と同様に重要になる、ということです。

子供が手足口病に。プール以外の夏の過ごし方

子供が手足口病と診断され、しばらくプールに入れない。でも、外は真夏日。元気を持て余した子供を、どうやって家で過ごさせればいいのか。多くの保護者の方が頭を悩ませる問題です。無理に外出すると、本人の体力を消耗させたり、周りに感染を広げたりするリスクもあります。ここでは、プールに入れなくても、子供が楽しく、そして安全に過ごせる、夏の過ごし方のアイデアをいくつかご紹介します。まず、大前提として、発熱や喉の痛みがある急性期は、自宅で安静に過ごすことが第一です。体力を消耗させないよう、室内で静かに楽しめる遊びを中心にしましょう。絵本を読んだり、お気に入りのDVDを観たり、粘土遊びや、お絵かき、簡単なパズルなどもおすすめです。体調が回復してきたら、少しずつ活動の幅を広げていきます。家の中でできる、ちょっとした「水遊び」は、プールに入れない子供の気持ちを満たしてあげるのに最適です。例えば、お風呂場にぬるま湯を少しだけ張り、水鉄砲や、空のペットボトル、プラスチックのコップなど、安全なおもちゃで遊ばせてあげましょう。ベランダや庭に、小さなビニールプールを設置できる場合は、ごく浅く水を張って、座ったまま遊ばせるのも良いでしょう。ただし、近隣の迷惑にならないよう、時間や騒音には十分配慮が必要です。また、水遊び以外にも、夏らしい遊びはたくさんあります。一緒にアイスクリームやシャーベットを作ったり、色画用紙でうちわを作ったりするのも、楽しい時間になります。シャボン玉遊びも、広い公園など、人が密集していない場所であれば、良い気分転換になるでしょう。外出する場合は、病気が完全に治りきっていないことを念頭に置き、短時間で、人混みを避けることが鉄則です。涼しい時間帯に、近所を少しだけ散歩する程度に留めましょう。公園の遊具など、不特定多数の子供が触れる場所は、接触感染のリスクがあるため、症状が完全に治まるまでは避けた方が賢明です。子供の「遊びたい」という気持ちと、体の「休みたい」という要求のバランスを取りながら、親子で工夫して、安全で楽しい夏の思い出を作ってあげてください。

プールでうつる?うつさない?手足口病のタオルの扱い

手足口病の家庭内感染や、集団生活での感染を防ぐ上で、非常に重要なポイントとなるのが「タオルの適切な管理」です。特に、肌が直接触れ、湿った状態になりやすいタオルは、ウイルスの格好の運び屋(媒介物)となり得るため、細心の注意が必要です。これは、プールでのタオルの扱いにおいても、全く同じことが言えます。まず、大原則として、「タオルの共用は絶対にしない」ことです。手足口病のウイルスは、感染者の唾液や鼻水、そして水ぶくれの内容液にも含まれています。感染している子供が使ったタオルには、これらの体液と共に、ウイルスが付着している可能性が非常に高いです。もし、兄弟や友人とタオルを貸し借りしてしまうと、そのタオルを介して、ウイルスが別の子供の手に移り、さらにその手から口や鼻へと侵入する「接触感染」が、容易に成立してしまいます。プールサイドで、友達のタオルを「ちょっと貸して」と使ってしまう光景はよく見られますが、感染症の流行時期には、非常に危険な行為であることを、子供にもよく言い聞かせる必要があります。自分のタオルには、名前を書いたり、分かりやすいマークをつけたりして、他の子のものと間違えないようにする工夫も大切です。次に、使用後のタオルの扱いです。プールで使った濡れたタオルは、ビニール袋などに入れて、他の洗濯物とは分けて持ち帰りましょう。そして、自宅での洗濯ですが、手足口病ウイルスは比較的熱に強い性質を持っています。可能であれば、85度で1分間以上の熱水洗濯や、乾燥機の使用が、ウイルスの不活化に効果的です。それが難しい場合は、通常の洗濯後に、天日でしっかりと乾燥させるだけでも、ウイルスの数を減らす効果が期待できます。また、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤)に浸け置きしてから洗濯するのも、有効な消毒方法です。ただし、色落ちする可能性があるので、白いタオルなどに限定されます。これらのタオルの衛生管理は、他の子供に「うつさない」ための配慮であると同時に、ウイルスがタオルの他の部分に付着し、それを本人が再び触れることで、症状を悪化させたり、治りを遅くしたりするのを防ぐ意味でも重要です。プールでの楽しい時間を安全なものにするために、タオルの正しい管理を徹底しましょう。