「最近、喉の調子が悪くて咳が出るのですが、仕事は行っても大丈夫ですか」という相談を、診察室でよく受けます。しかし、レントゲンで肺に影が見え、マイコプラズマ肺炎と診断がついた後であれば、私の答えは常にノーです。大人の皆さんに知っていただきたいのは、この病気が「ウォーキング・ニューモニア」という別名を持っている恐ろしさです。歩き回れるから、仕事ができる程度の熱だからと、普段通りの生活を送ってしまうことで、気づいた時には両肺に炎症が広がり、入院が必要なほど重症化しているケースが多々あります。特に出勤を強行することのリスクは二点あります。一点目は、患者さん自身の身体へのダメージです。肺炎は身体が酸素を十分に取り込めなくなる病気です。オフィスワークであっても、移動や思考には多くの酸素を消費します。酸素不足の状態で無理をすれば、心臓に過度な負荷がかかり、合併症を誘発する恐れがあります。二点目は、職場への汚染です。マイコプラズマ肺炎は飛沫だけでなく、長時間浮遊する微小な粒子を通じても感染する可能性が指摘されています。換気の不十分な会議室であなたが数回咳をするだけで、その場にいる全員が予備軍となります。潜伏期間が長いため、あなたが「やっと治った」と思う頃に、職場内で次々と発症者が出るという時間差攻撃が起きます。私たちは診察において、解熱後、肺のラ音(雑音)が完全に消えることを確認するまで「治癒」とは判断しません。出勤停止の期間について、私はよく一週間の完全休養と、その後一週間のマスク着用を義務として患者さんに伝えます。もし、咳き込んで会話が中断するようなら、それはまだ身体が仕事を受け入れていないサインです。また、近年増加しているマクロライド耐性マイコプラズマの場合、通常の薬が効かず、治療が長期化することもあります。大人の肺炎を甘く見てはいけません。自己犠牲の精神で出勤することが、結果として職場に最大の損害を与える「感染拡大の起点」になることを、私たちは強く認識しなければなりません。