都内で働く三十代の女性、佐藤さんは、半年ほど前から夜に布団に入るとふくらはぎから足首にかけて、得体の知れない「むずむずする不快感」に襲われるようになりました。それはまるで足の中に無数の電熱線が通っているような、あるいは冷たい炭酸水が脈動しているような不快な感覚で、一秒たりとも足をじっとしていられませんでした。佐藤さんは最初、これを深刻な「足のむくみ」だと思い込み、着圧ソックスを何層にも重ねて履いたり、激しいスクワットをして足を疲れさせて無理やり眠ろうとしたりしましたが、症状は悪化する一方でした。寝不足から日中の仕事でミスを連発するようになり、ついに彼女は心療内科を受診しましたが、そこでは「ストレスによる自律神経失調症」と診断され、睡眠薬が処方されました。しかし、睡眠薬を飲んでも足のむずむずは止まらず、むしろ「眠いのに足が動いて眠れない」という地獄のような状態に拍車がかかりました。追い詰められた彼女が、藁をも掴む思いで受診したのが、睡眠障害を掲げる「内科・脳神経内科」の専門外来でした。担当した医師は、彼女の食事習慣や月経の状態を詳しく問診した後、通常の項目に加えて「フェリチン値」を含む血液検査を実施しました。結果、彼女のフェリチン値はわずか「12」という数値でした。一般的に健康とされる基準値は満たしていても、むずむず脚症候群の治療において推奨される「50以上」には遠く及ばない、深刻な貯蔵鉄不足だったのです。医師は「鉄は脳内でドーパミンを作るための貴重なガソリンです。あなたの足は、ガソリン切れでエンストを起こしている脳が必死に送っているSOS信号なのです」と説明しました。佐藤さんには、胃に負担の少ない最新の鉄剤が処方され、同時に鉄の吸収を妨げるコーヒーや紅茶を控えるようアドバイスが送られました。治療開始から一ヶ月、フェリチン値が上昇するにつれ、あんなに執拗だった足のむずむず感は潮が引くように消えていきました。佐藤さんは「何科に行けばいいかわからず遠回りしたけれど、血液一本で原因がわかるとは思わなかった」と語っています。この事例は、特に若い女性において「隠れ貧血」がむずむず脚の最大の原因であることを物語っています。足の異常を足だけで解決しようとせず、全身の栄養状態を診る専門科を選ぶことが、どれほど重要であるかを私たちは再認識すべきです。