医療問題・社会課題に対する解決策を探る

2025年8月
  • その指の痛みは更年期症状かもしれません

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    これまで何ともなかったのに、40代半ばを過ぎた頃から、指の関節が腫れぼったくなり、痛み始めた。特に朝、指がこわばって動かしにくい。そんな症状に悩む女性は少なくありません。これは、更年期に起こりやすい代表的な症状の一つであり、女性ホルモンである「エストロゲン」の急激な減少が深く関わっています。エストロゲンは、女性の体を妊娠や出産に適した状態に保つだけでなく、骨や血管、皮膚、そして関節の健康を維持するためにも重要な役割を担っています。エストロゲンには、関節を包む「滑膜」という組織の腫れを抑えたり、関節軟骨のすり減りを防いだり、腱や靭帯の潤いを保ったりする働きがあるのです。しかし、更年期に入り、卵巣の機能が低下すると、このエストロゲンの分泌量がジェットコースターのように乱高下しながら、急激に減少していきます。すると、これまでエストロゲンによって守られていた関節や腱は、炎症を起こしやすくなり、痛みや腫れ、こわばりといった症状が現れるのです。特に症状が出やすいのが、指の関節です。指の第一関節が変形し、痛む「ヘバーデン結節」や、第二関節に同様の症状が出る「ブシャール結節」は、更年期世代の女性に多発することが知られています。これらの症状は、かつては単なる加齢や指の使いすぎが原因と考えられていましたが、近年では、エストロゲンの減少が大きな引き金になっていることが明らかになってきました。もし、あなたが更年期世代で、原因不明の指の関節痛に悩んでいるなら、それは単なる「年のせい」ではないかもしれません。あなたの体の中で起きている、ホルモンの大きな変化が発しているサインなのです。このメカニズムを理解することが、適切な治療法を見つけ、つらい痛みと向き合うための第一歩となります。

  • 痛くないからと放置は危険?霰粒腫のリスク

    医療

    まぶたにできたしこり。赤みもなければ痛みもない。このような「痛くないものもらい」、すなわち霰粒腫は、急性の麦粒腫ほど強い症状がないため、つい「そのうち治るだろう」と軽く考え、放置してしまう人が少なくありません。確かに、小さな霰粒腫は、自然に吸収されて消えてしまうこともあります。しかし、痛くないからといって安易に放置し続けることには、いくつかの見過ごせないリスクが潜んでいます。まず、しこりが徐々に「大きくなる」リスクです。マイボーム腺の詰まりが解消されない限り、油分は内部に溜まり続けます。最初は米粒ほどの大きさだったしこりが、小豆大、大豆大と大きくなっていくと、まぶたが常に腫れぼったく見え、美容上の大きな問題となります。特に女性の場合、メイクで隠すことも難しくなり、精神的なストレスの原因にもなりかねません。次に、大きくなったしこりが眼球を圧迫することで、「視機能に影響が出る」リスクです。しこりが角膜(黒目の部分)を上から押さえつけると、角膜のカーブが歪み、「乱視」を引き起こすことがあります。これにより、物が見えにくくなったり、目が疲れやすくなったりします。この乱視は、しこりがなくならない限り改善しません。また、霰粒腫がまぶたの縁の近くにできると、まつ毛が眼球側に向かって生える「内反症」を引き起こし、まつ毛が目に当たってゴロゴロとした異物感や角膜障害の原因となることもあります。そして、最も注意すべきなのが、「急性炎症(化膿性霰粒腫)」を起こすリスクです。非感染性である霰粒腫の袋の中に、何らかのきっかけで細菌が入り込むと、急激に感染が起こります。こうなると、それまで痛くなかったしこりが、麦粒腫のように真っ赤に腫れ上がり、強い痛みを伴うようになります。こうなってからでは、治療もより複雑になり、治癒までの時間も長引いてしまいます。さらに、非常に稀ではありますが、高齢者で何度も同じ場所に霰粒腫を繰り返す場合、マイボーム腺がんなどの悪性腫瘍との鑑別が必要になることもあります。痛くないから大丈夫、という自己判断は禁物です。まぶたのしこりに気づいたら、たとえ症状が軽くても、一度は眼科を受診し、専門医の診断とアドバイスを仰ぐことが、これらのリスクを回避するための最も賢明な選択なのです。

  • その胃痛、本当に夏バテ?病院へ行くべき危険なサイン

    医療

    夏の時期に起こる胃の不調は、「どうせ夏バテだろう」と軽く考え、市販薬で様子を見てしまう人が少なくありません。確かに、その多くは生活習慣の乱れによる一時的な機能低下ですが、中には胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胆石症、さらには胃がんといった、緊急性の高い病気が隠れている可能性もゼロではありません。単なる夏バテと、見過ごしてはならない危険な病気とを見分けるためには、いくつかの重要なサインを知っておくことが自身の命を守ることに繋がります。まず、痛みの「質」と「強さ」に注意してください。これまで経験したことのないような激しい痛み、脂汗が出るほどの痛み、体を動かせないほどの痛みが続く場合は、迷わず救急外来を受診すべきです。また、痛みが数日以上にわたって持続したり、日に日に悪化していくような場合も、単なる機能性の胃痛とは考えにくいです。次に、胃痛以外の「随伴症状」の有無を注意深く観察しましょう。特に危険なサインは、吐血(赤い血や黒いコーヒーかすのようなものを吐く)、下血(タールのような真っ黒い便が出る)、原因不明の体重減少、38度以上の高熱、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)です。これらの症状は、消化管からの出血や深刻な炎症、あるいは悪性腫瘍の存在を示唆している可能性があります。さらに、痛みの「パターン」もヒントになります。食後に決まって痛む場合は胃潰瘍、逆に空腹時に痛んで食事をすると和らぐ場合は十二指腸潰瘍が疑われます。また、脂っこい食事をした後に右の上腹部が痛む場合は胆石症の可能性も考えられます。これらの危険なサインに一つでも当てはまる場合は、「夏バテだから」という自己判断は絶対にせず、速やかに消化器内科を受診し、専門医による適切な診断と治療を受けてください。

  • どの病院に行けば良いか分からなかった私の体験

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    社会人になって数年が経った頃、私の体は静かに悲鳴を上げ始めました。最初は、朝起きられないほどの倦怠感。次に、満員電車に乗ると息が苦しくなり、心臓がバクバクと音を立てるようになりました。当時は仕事のプレッシャーのせいだと軽く考え、栄養ドリンクを飲んで自分を奮い立たせる日々。しかし、症状は悪化の一途をたどり、ついには会議中にめまいで倒れそうになる事態にまで発展しました。同僚に心配され、まずは心臓に問題があるのではと循環器内科の門を叩きました。心電図、心エコー、血液検査と、あらゆる検査を受けましたが、医師から返ってきた言葉は「心臓に全く異常はありませんね」というものでした。健康であると証明されたはずなのに、私の心は晴れませんでした。原因が分からないという事実は、得体の知れない怪物に追いかけられているような恐怖でした。途方に暮れる私を見かねて、その医師は「もしかしたら、自律神経が関係しているかもしれません。一度、心療内科で相談してみてはいかがですか」と優しく助言してくれました。正直なところ、心療内科と聞くと精神的な弱さのレッテルを貼られるような気がして、強い抵抗感がありました。しかし、このまま症状を抱えて生活することは不可能だと感じ、震える手で紹介されたクリニックに電話をかけたのです。初診の日、私は緊張しながらこれまでの経緯を話しました。先生は私の話を遮ることなく、静かに耳を傾け、仕事の状況や生活リズムについて丁寧に質問してくれました。そして「それはつらかったですね。あなたの体は、これ以上無理だよとサインを出しているんです」と言われ、涙が溢れました。自律神経失調症という診断を受け、生活指導と漢方薬による治療が始まりました。あの時、勇気を出して一歩を踏み出したことが、私の人生の転機になったと今でも確信しています。

  • 大人がかかるヘルパンギーナその恐るべき初期症状

    医療

    ヘルパンギーナと聞くと、多くの人は「子どもの夏風邪」というイメージを抱くでしょう。確かに、乳幼児を中心に夏に流行する代表的なウイルス性疾患ですが、大人が感染しないというわけでは決してありません。むしろ、大人が感染した場合、子どもよりも遥かに重く、激烈な症状に見舞われることが多く、その初期症状は経験した者でなければ分からないほどの苦痛を伴います。大人のヘルパンギーナの始まりは、非常に突然かつ劇的です。多くの場合、前触れもなく、いきなり39度から40度に達する高熱が襲いかかります。まるでインフルエンザに罹患したかのような、体の芯から震えるほどの強烈な悪寒と、関節という関節が軋むような全身の倦怠感が同時に押し寄せ、立っていることすら困難になります。しかし、大人のヘルパンギーナの本当の恐怖は、熱だけではありません。発熱とほぼ同時に、あるいは少し遅れて現れるのが、喉の奥、特に口蓋垂(のどちんこ)の周辺や軟口蓋に現れる、無数の小さな水疱と、それに伴う焼けるような激しい咽頭痛です。これは単なる風邪の喉の痛みとは全く異次元の痛みです。例えるなら、喉の粘膜に無数の口内炎が同時にでき、そこに熱した針を突き刺されるような感覚、あるいはカミソリの刃で喉を切り裂かれるような鋭い痛みが、息をするたび、唾を飲み込むたびに襲いかかります。この痛みはあまりに強烈なため、食事はもちろん、水分摂取すらままならなくなり、脱水症状に陥る危険性も高まります。初期症状の段階では、特徴的な水疱がまだはっきりと現れていないこともあり、高熱と喉の痛みから、最初は重症の扁桃炎や、場合によってはコロナウイルス感染症を疑うかもしれません。しかし、日に日に増していく喉の痛みの異常さと、口の奥に現れる赤い小水疱の存在が、ヘルパンギーナの診断を決定づける重要な手がかりとなります。子どもの病気と侮ることなく、これらの激烈な初期症状を正しく認識し、早期に医療機関を受診することが、苦痛を少しでも和らげるための第一歩となるのです。

  • めまいや耳鳴りは耳鼻咽喉科から調べる意味

    医療

    突然、世界がぐるぐると回り出すような回転性のめまい。あるいは、常にキーンという高い音が耳から離れない耳鳴り。これらの症状は非常に不快で、日常生活に大きな支障をきたします。そして、これらは自律神経の乱れが原因で起こる代表的な症状としてもよく知られています。しかし、安易に「ストレスのせいだ」と自己判断してしまう前に、まず訪れるべき診療科があります。それが耳鼻咽喉科です。なぜなら、めまいや耳鳴りの原因が、耳の奥にある平衡感覚を司る「三半規管」や音を感じ取る「蝸牛」といった器官の異常にある可能性が高いからです。例えば、良性発作性頭位めまい症(BPPV)は、耳石という炭酸カルシウムの粒が三半規管に入り込むことで起こる、最も頻度の高いめまいです。これは特定の頭の位置で誘発される特徴があり、多くは理学療法で改善します。また、メニエール病は、内耳の内リンパ水腫が原因で、激しいめまいと難聴、耳鳴りを繰り返す病気です。これらの病気は、耳鼻咽喉科の専門的な検査によってはじめて正確な診断が可能になります。もし、これらの検査で耳に明らかな異常が見つからなかった場合、そこではじめて自律神経の不調や、首や肩の凝りによる血行不良、あるいは脳の問題などが原因として考えられるのです。耳鼻咽喉科で器質的な疾患がないことを確認することは、その後の治療方針を決める上で極めて重要です。原因が分からないまま心療内科などで治療を始めても、根本的な問題が耳にあれば症状は改善しません。まずは症状が起きている場所に最も近い専門家を訪ねるという原則に立ち返り、めまいや耳鳴りに悩んだら、耳鼻咽喉科の扉を叩くことから始めてみてください。それが遠回りのようで、実は最も確実な回復への一歩となるのです。

  • 大人の水疱瘡はなぜ跡が残りやすいのか

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    「大人がかかると重症化する」と言われる病気はいくつかありますが、水疱瘡はその代表格です。子どもの頃にかかるよりも遥かに高熱が続き、発疹の数も多く、肺炎や脳炎といった深刻な合併症を引き起こすリスクも高まります。そして、治癒した後も、子どもの頃にかかった場合と比較して、跡が残りやすいという非常に厄介な特徴があります。なぜ大人の水疱瘡は、より深刻な跡を残してしまうのでしょうか。その理由は、体の免疫反応と皮膚の再生能力の違いにあります。大人の体は、子どもに比べて免疫システムが完成しているため、水痘・帯状疱疹ウイルスに対してより強力な免疫反応を示します。この過剰とも言える強い炎症反応が、皮膚のより深い部分である真皮層にまでダメージを与えてしまうのです。皮膚の表面である表皮のダメージであれば、ターンオーバーによって綺麗に再生されますが、真皮層まで破壊されてしまうと、コラーゲン線IFNが失われ、凹んだ瘢痕、いわゆるクレーターとなって残ってしまいます。さらに、年齢と共に皮膚の再生能力やターンオーバーの速度そのものが低下していることも、跡が残りやすくなる一因です。新しい皮膚が作られるスピードが遅いため、炎症によって生じた色素沈着がなかなか排出されず、長期間にわたって茶色いシミとして居座り続けます。また、大人は仕事や社会生活のストレス、睡眠不足など、免疫力を低下させる要因を抱えていることも多く、それらが治癒を遅らせ、結果的に跡が残りやすい状況を作り出してしまいます。水疱瘡はワクチンで予防できる病気です。特に、過去にかかった記憶がない、あるいは抗体価が低い成人は、自らを守るため、そして辛い跡を残さないために、ワクチン接種を検討することが賢明な選択と言えるでしょう。

  • 認知症診断は終わりでなくサポートの始まり

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    「認知症です」という医師からの告知は、ご本人にとってもご家族にとっても、計り知れない衝撃であり、目の前が真っ暗になるような感覚に襲われるかもしれません。しかし、その診断は決して人生の終わりを意味するものではありません。むしろ、それまで原因不明の不安や混乱の中にいた状態から抜け出し、適切な治療やサポートを受け、病気と向き合いながら穏やかに暮らしていくための「始まりの合図」なのだと捉えることが大切です。診断が確定して初めて、具体的な次の一歩を踏み出すことができます。まず、薬物療法です。アルツハイマー型認知症など一部の認知症には、病気の進行を緩やかにする薬があり、早期から服用を始めることで、良い状態をより長く保つことが期待できます。また、不安や興奮といった行動・心理症状を和らげる薬も、ご本人と介護者の負担を大きく軽減してくれます。そして、薬物療法と並行して重要になるのが、非薬物療法と介護サービスの活用です。昔を懐かしく語り合う回想法、音楽や園芸を楽しむアクティビティ、適度な運動などは、脳に良い刺激を与え、精神的な安定にもつながります。さらに、介護保険の要介護認定を申請することで、デイサービス(通所介護)やショートステイ(短期入所生活介護)、ホームヘルパー(訪問介護)といった様々な公的サービスを、少ない自己負担で利用できるようになります。これらのサービスは、ご本人の社会的な孤立を防ぎ、家族の介護負担を軽減するための強力な支えとなります。どこに相談すればよいか分からない時は、まずはお住まいの市町村にある「地域包括支援センター」を訪ねてみてください。そこには保健師や社会福祉士などの専門家がおり、診断後の生活設計について、親身に相談に乗ってくれるはずです。診断は絶望ではなく、希望ある次の一歩のためのスタートラインなのです。

  • 更年期の指の痛みと上手に付き合う

    医療

    更年期は、女性の人生において、体が大きく変化する、一つの大きな節目です。これまで経験したことのないような、様々な心身の不調が現れる中で、指の関節の痛みやこわばりは、日常生活の質をじわじわと蝕む、非常につらい症状の一つです。料理をする、文字を書く、パソコンを打つ。そんな当たり前の動作一つひとつに痛みが伴うことで、気分も滅入りがちになります。しかし、この痛みは、あなただけが経験している特別なものではありません。多くの同世代の女性が、同じように悩み、そして工夫しながら、この時期を乗り越えています。この症状と上手に付き合っていくために、最も大切なのは、「一人で我慢しないこと」です。まずは、その痛みが「更年期によるものかもしれない」という可能性を知り、適切な専門家(整形外科、婦人科、リウマチ科など)に相談すること。医学的な診断を受け、自分の体の状態を正しく把握するだけで、漠然とした不安は大きく軽減されます。そして、医師の治療と並行して、自分自身でできるセルフケアを、生活の中に楽しみながら取り入れてみましょう。例えば、お風呂の時間に、好きな香りのアロマオイルを入れたお湯で、ゆっくりと指をマッサージする。それは、単なる痛みのケアだけでなく、一日頑張った自分をいたわる、大切なリラックスタイムにもなります。また、同じ悩みを抱える友人と、お茶をしながら情報交換をするのも良いでしょう。「このテーピングが良かったよ」「あのサプリメントを試してみたら、少し楽になった気がする」といった会話は、有益な情報交換の場であると同時に、「悩んでいるのは私だけじゃないんだ」という安心感を与えてくれます。痛みが強い日には、無理をしない。家事を少し手抜きしたり、パートナーや家族に助けを求めたりすることも、決して悪いことではありません。更年期の指の痛みは、あなたの体が、これまでの人生を頑張ってきた証しであり、「これからは、もっと自分を大切にして」というメッセージなのかもしれません。痛みと賢く、そして優しく付き合っていく。その視点を持つことが、これからの人生を、より豊かに、そして穏やかに過ごすための鍵となるのです。

  • 霰粒腫のセルフケア、温めるべきか冷やすべきか

    知識

    まぶたにしこりができる霰粒腫。痛みが少ないため、病院に行く前にまずは自分で何かできないかと考える方も多いでしょう。セルフケアとしてよく話題に上るのが、「温める」のと「冷やす」のどちらが良いのかという問題です。これは、霰粒腫の状態によって適切な対処が異なるため、正しく理解しておく必要があります。まず、基本的な考え方として、痛みがなく、赤みも腫れも強くない、慢性的な状態の「霰粒腫」に対しては、「温める(温罨法)」が有効です。霰粒腫は、マイボーム腺という脂腺に、固まった油分が詰まることで生じます。この詰まった油分は、バターが温めると溶けるように、熱を加えることで融解し、排出されやすくなります。具体的な方法としては、蒸しタオルや、市販の温熱アイマスクなどを使い、1回5分程度、まぶたの上から優しく温めます。お風呂に浸かりながら、清潔な指の腹でまぶたの縁を優しくマッサージするのも、血行を促進し、詰まりを解消するのに効果的です。この温めるケアは、血行を良くし、マイボーム腺の機能を正常化させることで、新たな霰粒腫の予防にも繋がります。一方、「冷やす(冷罨法)」べきなのは、霰粒腫に細菌感染が合併し、急性の炎症を起こした「化膿性霰粒腫」の場合です。この状態になると、それまで痛くなかったしこりが、急に赤く腫れ上がり、ズキズキとした強い痛みを伴います。これは、麦粒腫と同じような状態であり、炎症が活発に起きているサインです。このような時に温めてしまうと、血行が促進されることで、かえって炎症や腫れを助長してしまう可能性があります。したがって、急性の強い痛みや赤みがある場合は、清潔なガーゼなどで保冷剤を包み、軽くまぶたに当てるなどして冷やし、炎症を鎮める方が適切です。ただし、このセルフケアはあくまで応急処置です。化膿性霰粒腫は、抗菌薬による治療が必要となるため、速やかに眼科を受診しなければなりません。まとめると、「痛みがなく、慢性的で、しこりだけがある霰粒腫」には「温める」。「急に赤く腫れて、ズキズキと痛む化膿性霰粒腫」には「冷やす」。この原則を覚えておきましょう。ただし、自己判断に自信がない場合や、症状が改善しない場合は、必ず専門医の指示を仰ぐことが最も安全です。