まぶたの腫れやしこりを引き起こす代表的な病気である「霰粒腫」と「麦粒腫」。どちらも俗に「ものもらい」と呼ばれることがあり、混同されがちですが、その原因、症状、そして治療法において、両者には明確な違いが存在します。この違いを正しく理解することは、適切な対処を行う上で非常に重要です。まず、発生原因が根本的に異なります。「麦粒腫」は、黄色ブドウ球菌などの細菌が、まつ毛の毛根や、汗や油を出す腺に感染することで起こる、急性の「化膿性炎症」です。例えるなら、まぶたにできた「おでき」や「ニキビ」のようなものです。一方、「霰粒腫」は、まぶたの縁にあるマイボーム腺という脂腺が詰まることで、分泌物が排出されずに溜まって肉芽腫(にくげしゅ)という塊を形成する、非感染性の「慢性的な炎症」です。こちらは細菌感染が直接の原因ではありません。この原因の違いが、症状の現れ方に決定的な差をもたらします。「麦粒腫」の主な症状は、「赤み・腫れ・痛み」の三拍子が揃った、急激な炎症反応です。まぶたが赤く腫れ上がり、ズキズキとした拍動性の痛みを伴い、時には膿の出口(膿点)が白く見えることもあります。まさに「炎症が起きている」という分かりやすいサインが現れます。対して、「霰粒腫」の最大の特徴は、「痛みがほとんどない」ことです。初期段階では、まぶたの中にコロコロとした小さなしこりを触れるだけで、赤みや痛みは伴いません。しこりが徐々に大きくなるにつれて、まぶたの腫れぼったさや異物感は出てきますが、麦粒腫のような激しい痛みを感じることは稀です。治療法も、この原因と症状の違いに応じて異なります。「麦粒腫」は細菌感染が原因なので、治療の基本は「抗菌薬」です。抗菌成分の入った点眼薬や眼軟膏、場合によっては内服薬が処方されます。膿が溜まってくれば、切開して排膿することもあります。一方、「霰粒腫」は非感染性なので、抗菌薬は原則として効果がありません。小さなしこりは、まぶたを温めてマッサージをすることで詰まりが解消され、自然に吸収されることもあります。しかし、しこりが大きい場合や、長期間改善しない場合は、ステロイド薬を注射して炎症を抑えたり、手術でしこりを摘出したりする必要があります。このように、似ているようで全く異なる二つの病気。自己判断はせず、眼科医による正確な診断が不可欠です。