まぶたにできたしこり。赤みもなければ痛みもない。このような「痛くないものもらい」、すなわち霰粒腫は、急性の麦粒腫ほど強い症状がないため、つい「そのうち治るだろう」と軽く考え、放置してしまう人が少なくありません。確かに、小さな霰粒腫は、自然に吸収されて消えてしまうこともあります。しかし、痛くないからといって安易に放置し続けることには、いくつかの見過ごせないリスクが潜んでいます。まず、しこりが徐々に「大きくなる」リスクです。マイボーム腺の詰まりが解消されない限り、油分は内部に溜まり続けます。最初は米粒ほどの大きさだったしこりが、小豆大、大豆大と大きくなっていくと、まぶたが常に腫れぼったく見え、美容上の大きな問題となります。特に女性の場合、メイクで隠すことも難しくなり、精神的なストレスの原因にもなりかねません。次に、大きくなったしこりが眼球を圧迫することで、「視機能に影響が出る」リスクです。しこりが角膜(黒目の部分)を上から押さえつけると、角膜のカーブが歪み、「乱視」を引き起こすことがあります。これにより、物が見えにくくなったり、目が疲れやすくなったりします。この乱視は、しこりがなくならない限り改善しません。また、霰粒腫がまぶたの縁の近くにできると、まつ毛が眼球側に向かって生える「内反症」を引き起こし、まつ毛が目に当たってゴロゴロとした異物感や角膜障害の原因となることもあります。そして、最も注意すべきなのが、「急性炎症(化膿性霰粒腫)」を起こすリスクです。非感染性である霰粒腫の袋の中に、何らかのきっかけで細菌が入り込むと、急激に感染が起こります。こうなると、それまで痛くなかったしこりが、麦粒腫のように真っ赤に腫れ上がり、強い痛みを伴うようになります。こうなってからでは、治療もより複雑になり、治癒までの時間も長引いてしまいます。さらに、非常に稀ではありますが、高齢者で何度も同じ場所に霰粒腫を繰り返す場合、マイボーム腺がんなどの悪性腫瘍との鑑別が必要になることもあります。痛くないから大丈夫、という自己判断は禁物です。まぶたのしこりに気づいたら、たとえ症状が軽くても、一度は眼科を受診し、専門医の診断とアドバイスを仰ぐことが、これらのリスクを回避するための最も賢明な選択なのです。
痛くないからと放置は危険?霰粒腫のリスク