夏の時期に起こる胃の不調は、「どうせ夏バテだろう」と軽く考え、市販薬で様子を見てしまう人が少なくありません。確かに、その多くは生活習慣の乱れによる一時的な機能低下ですが、中には胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胆石症、さらには胃がんといった、緊急性の高い病気が隠れている可能性もゼロではありません。単なる夏バテと、見過ごしてはならない危険な病気とを見分けるためには、いくつかの重要なサインを知っておくことが自身の命を守ることに繋がります。まず、痛みの「質」と「強さ」に注意してください。これまで経験したことのないような激しい痛み、脂汗が出るほどの痛み、体を動かせないほどの痛みが続く場合は、迷わず救急外来を受診すべきです。また、痛みが数日以上にわたって持続したり、日に日に悪化していくような場合も、単なる機能性の胃痛とは考えにくいです。次に、胃痛以外の「随伴症状」の有無を注意深く観察しましょう。特に危険なサインは、吐血(赤い血や黒いコーヒーかすのようなものを吐く)、下血(タールのような真っ黒い便が出る)、原因不明の体重減少、38度以上の高熱、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)です。これらの症状は、消化管からの出血や深刻な炎症、あるいは悪性腫瘍の存在を示唆している可能性があります。さらに、痛みの「パターン」もヒントになります。食後に決まって痛む場合は胃潰瘍、逆に空腹時に痛んで食事をすると和らぐ場合は十二指腸潰瘍が疑われます。また、脂っこい食事をした後に右の上腹部が痛む場合は胆石症の可能性も考えられます。これらの危険なサインに一つでも当てはまる場合は、「夏バテだから」という自己判断は絶対にせず、速やかに消化器内科を受診し、専門医による適切な診断と治療を受けてください。