ヘルパンギーナと聞くと、多くの人は「子どもの夏風邪」というイメージを抱くでしょう。確かに、乳幼児を中心に夏に流行する代表的なウイルス性疾患ですが、大人が感染しないというわけでは決してありません。むしろ、大人が感染した場合、子どもよりも遥かに重く、激烈な症状に見舞われることが多く、その初期症状は経験した者でなければ分からないほどの苦痛を伴います。大人のヘルパンギーナの始まりは、非常に突然かつ劇的です。多くの場合、前触れもなく、いきなり39度から40度に達する高熱が襲いかかります。まるでインフルエンザに罹患したかのような、体の芯から震えるほどの強烈な悪寒と、関節という関節が軋むような全身の倦怠感が同時に押し寄せ、立っていることすら困難になります。しかし、大人のヘルパンギーナの本当の恐怖は、熱だけではありません。発熱とほぼ同時に、あるいは少し遅れて現れるのが、喉の奥、特に口蓋垂(のどちんこ)の周辺や軟口蓋に現れる、無数の小さな水疱と、それに伴う焼けるような激しい咽頭痛です。これは単なる風邪の喉の痛みとは全く異次元の痛みです。例えるなら、喉の粘膜に無数の口内炎が同時にでき、そこに熱した針を突き刺されるような感覚、あるいはカミソリの刃で喉を切り裂かれるような鋭い痛みが、息をするたび、唾を飲み込むたびに襲いかかります。この痛みはあまりに強烈なため、食事はもちろん、水分摂取すらままならなくなり、脱水症状に陥る危険性も高まります。初期症状の段階では、特徴的な水疱がまだはっきりと現れていないこともあり、高熱と喉の痛みから、最初は重症の扁桃炎や、場合によってはコロナウイルス感染症を疑うかもしれません。しかし、日に日に増していく喉の痛みの異常さと、口の奥に現れる赤い小水疱の存在が、ヘルパンギーナの診断を決定づける重要な手がかりとなります。子どもの病気と侮ることなく、これらの激烈な初期症状を正しく認識し、早期に医療機関を受診することが、苦痛を少しでも和らげるための第一歩となるのです。
大人がかかるヘルパンギーナその恐るべき初期症状