「認知症です」という医師からの告知は、ご本人にとってもご家族にとっても、計り知れない衝撃であり、目の前が真っ暗になるような感覚に襲われるかもしれません。しかし、その診断は決して人生の終わりを意味するものではありません。むしろ、それまで原因不明の不安や混乱の中にいた状態から抜け出し、適切な治療やサポートを受け、病気と向き合いながら穏やかに暮らしていくための「始まりの合図」なのだと捉えることが大切です。診断が確定して初めて、具体的な次の一歩を踏み出すことができます。まず、薬物療法です。アルツハイマー型認知症など一部の認知症には、病気の進行を緩やかにする薬があり、早期から服用を始めることで、良い状態をより長く保つことが期待できます。また、不安や興奮といった行動・心理症状を和らげる薬も、ご本人と介護者の負担を大きく軽減してくれます。そして、薬物療法と並行して重要になるのが、非薬物療法と介護サービスの活用です。昔を懐かしく語り合う回想法、音楽や園芸を楽しむアクティビティ、適度な運動などは、脳に良い刺激を与え、精神的な安定にもつながります。さらに、介護保険の要介護認定を申請することで、デイサービス(通所介護)やショートステイ(短期入所生活介護)、ホームヘルパー(訪問介護)といった様々な公的サービスを、少ない自己負担で利用できるようになります。これらのサービスは、ご本人の社会的な孤立を防ぎ、家族の介護負担を軽減するための強力な支えとなります。どこに相談すればよいか分からない時は、まずはお住まいの市町村にある「地域包括支援センター」を訪ねてみてください。そこには保健師や社会福祉士などの専門家がおり、診断後の生活設計について、親身に相談に乗ってくれるはずです。診断は絶望ではなく、希望ある次の一歩のためのスタートラインなのです。