大切な家族に「あれ?」と思う瞬間が増えてきたとき、多くの人が最初に直面する壁は、一体どの病院の何科に相談すればよいのかという問題です。認知症の初期症状は、単なる加齢による物忘れと見分けがつきにくく、また症状の現れ方も多様であるため、適切な診療科を選ぶのは決して簡単ではありません。一般的に、認知症の診断と治療を専門的に扱うのは、精神科、神経内科、老年科、そして「物忘れ外来」です。精神科は、認知症に伴う不安、うつ、幻覚、妄想、興奮といった行動・心理症状(BPSD)のケアに強みを持っています。心の専門家として、患者さん本人や家族の精神的な負担を軽減するアプローチを得意とします。一方、神経内科は、脳や神経の器質的な変化を診る専門家です。CTやMRIといった画像診断や神経学的な診察を通じて、アルツハイマー型認知症だけでなく、レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症など、原因となる疾患を正確に鑑別診断することに長けています。また、老年科(老年内科)は、高齢者を総合的に診療する科です。認知症だけでなく、高齢者が抱えがちな複数の持病や、多くの薬を服用していることによる影響なども含めて、体全体の状態をトータルで診てくれるのが特徴です。そして近年増えているのが「物忘れ外来」です。これは認知症診断に特化した専門外来で、多くの場合、臨床心理士やソーシャルワーカーなど多職種の専門家がチームを組んで対応にあたります。どの科が最適か迷った場合は、まず最も気になる症状を基準に考えるとよいでしょう。物忘れが主なら物忘れ外来や神経内科、気分の落ち込みや不可解な言動が目立つなら精神科、というように判断するのも一つの方法です。