認知症と聞くと、誰もが進行性で根本的な治療法がない、不治の病というイメージを抱くかもしれません。しかし、認知症のような症状を引き起こす病気の中には、原因となっている疾患を治療することで、劇的に症状が改善したり、完治したりするケースが存在します。これらは俗に「治る認知症」と呼ばれており、この可能性を見逃さないためにも、早期の正確な鑑別診断が極めて重要になります。代表的な「治る認知症」の一つが、「正常圧水頭症」です。これは、脳の周りを満たしている脳脊髄液の流れが滞り、脳室に過剰に溜まることで脳を圧迫する病気です。物忘れなどの認知機能低下に加え、「歩幅が狭く、足が上がらない」といった歩行障害や、尿失禁を伴うのが特徴で、脳内に溜まった髄液をチューブで腹部などに逃がすシャント手術を行うことで、症状の劇的な改善が期待できます。また、「慢性硬膜下血腫」も原因の一つです。頭を軽くぶつけたことなどがきっかけで、脳の表面にじわじわと血液が溜まり、数週間から数ヶ月かけて脳を圧迫します。これもCTやMRI検査で容易に診断でき、手術で血腫を取り除けば、認知機能は回復します。その他にも、体の新陳代謝を司る甲状腺ホルモンの分泌が低下する「甲状腺機能低下症」や、ビタミンB1、B12、葉酸などの欠乏症も、無気力や物忘れといった認知症そっくりの症状を引き起こしますが、これらは血液検査で診断でき、ホルモン剤やビタミンの補充で治療可能です。うつ病も、高齢者の場合は「仮性認知症」と呼ばれるほど認知機能の低下を伴うことがあります。これらの可能性を一つひとつ丁寧に除外していくためにも、物忘れに気づいたら自己判断せず、適切な医療機関で総合的な検査を受けることが何よりも大切なのです。