平穏だった私の日常は、42歳の誕生日を迎えた数日後の朝、一本の鋭い痛みによって唐突に引き裂かれました。ベッドから降り、フローリングの床に右足をついた瞬間、かかとの中心を熱したキリで突き刺されたかのような、息を呑むほどの激痛が走ったのです。思わず「うわっ!」と奇妙な声を上げ、壁に手をついて倒れ込むのをこらえました。一瞬、ガラスの破片でも踏んだのかと錯覚し、恐る恐る足の裏を見ても、もちろん傷一つありません。骨にヒビでも入ったのではないか、という不吉な予感が頭をよぎりました。しかし、不思議なことに、数分間足を引きずりながら家の中を歩き回っていると、あれほど強烈だった痛みは嘘のように和らいでいくのです。その日は「寝違えたようなものだろう」と軽く考え、やり過ごしました。しかし、悪夢は翌朝も、その次の朝も繰り返されました。起床後の一歩目が、まるでロシアンルーレットのように恐怖の時間となったのです。さらに、日中でも、会議で長時間座った後に立ち上がる時や、電車のシートから降りる時にも、同様の痛みが襲ってくるようになりました。さすがにこれは尋常ではないと感じ、重い腰を上げて近所の整形外科の門を叩きました。レントゲン検査の結果、骨には何の異常もありません。医師は私の痛むかかとを入念に押し、足を動かしながら、「典型的な足底腱膜炎ですね。長年の負担が積み重なって、腱膜が悲鳴を上げている状態です」と静かに告げました。原因は、運動不足による体重増加と、クッション性のないお気に入りの革靴を履き続けたことによる、アーチの機能低下でした。その日から、私とこの厄介な痛みとの、出口の見えない長い闘いが始まりました。処方された湿布と痛み止め、そして理学療法士に教わった地道なストレッチとタオルギャザー運動。毎日毎日、まるで儀式のように繰り返しました。痛みが完全に消え、朝の第一歩の恐怖から解放されるまでには、一年近い歳月が必要でした。たかが足の裏と侮っていた自分を心から恥じると同時に、何気ない一歩がいかに尊いものであるかを、骨の髄まで思い知らされた貴重な経験でした。