ランニングやバスケットボール、ダンスなど、日々のトレーニングに情熱を注いでいるアスリートやスポーツ愛好家が、ある時から足の裏や甲に、原因不明の鈍い痛みを感じ始めた場合、それは決して軽視してはならない体からの警告かもしれません。単なる筋肉痛や使いすぎによる腱の炎症だと自己判断し、痛みを我慢して練習を続けてしまうと、取り返しのつかない事態を招くことがあります。その痛みの正体は、もしかしたら「疲労骨折」かもしれないのです。疲労骨折は、一度の大きな力で骨がポッキリと折れる外傷性の骨折とは異なり、骨の同じ部位に繰り返し小さなストレスがかかり続けることで、骨の自己修復能力が追いつかなくなり、微細なひび割れ(亀裂)が生じる状態を指します。いわば、針金を何度も折り曲げているうちに、やがて折れてしまうのと同じ原理です。足の骨、特に足の甲を形成する中足骨は、ランニングの着地やジャンプの踏み切り時に大きな衝撃を受け止めるため、この疲労骨折が最も起こりやすい部位の一つとして知られています。初期症状は非常に曖昧で、運動中にのみ感じる、場所がはっきりしない鈍い痛みがほとんどです。そのため、「少し調子が悪いのかな」程度にしか考えず、練習を継続してしまうケースが後を絶ちません。しかし、根本原因である負荷を取り除かない限り、骨の亀裂は徐々に拡大していきます。やがては、歩くだけで痛むようになったり、患部が腫れて熱を持ったり、軽く押しただけでも激痛が走るようになったりします。診断も難しく、発症初期の段階ではレントゲン検査では異常が認められないことが多く、確定診断には骨の微細な変化を捉えることができるMRI検査や骨シンチグラフィーが必要となる場合があります。治療の原則は、何よりも「絶対安静」です。原因となったスポーツ活動を完全に中止し、骨が癒合するまで数週間から数ヶ月間の休養が求められます。この期間を惜しんで中途半端に復帰すれば、再発のリスクは非常に高くなります。急激な練習量の増加、不適切なフォーム、クッション性の低いシューズ、栄養不足などは全てリスク要因です。しつこい痛みは、体の限界を知らせるサインです。勇気を持って休むことが、より長く競技を続けるための最善の策なのです。