医療問題・社会課題に対する解決策を探る

社会人２年目の夏、私は人生で最も過酷な夏バテを経験しました。外回りの営業職だった私は、灼熱のアスファルトの上を毎日歩き続け、汗だくでオフィスに戻ると、今度は冷房の冷気に凍えるという、まさに自律神経を酷使する日々を送っていました。当時の私にとって、唯一の癒しでありご褒美だったのが、仕事終わりに喉に流し込むキンキンに冷えたビールと、帰宅途中にコンビニで買うアイスクリームでした。食事もまともに摂る気力がなく、昼はざるそば、夜はそうめんといった、喉を通りやすい炭水化物ばかり。温かいものを口にするという習慣は、すっかり頭から抜け落ちていました。最初は軽い食欲不振程度だったのですが、八月に入る頃には、常に胃が重く、まるで石でも入っているかのような感覚に悩まされるようになりました。そして運命の朝、みぞおちのあたりをキリで突き刺されるような激しい痛みで目が覚めました。体を丸めてうずくまることしかできず、冷や汗が背中を伝います。これは尋常ではないと悟り、なんとか起き上がって近所の消化器内科に駆け込みました。問診でここ数週間の食生活を正直に話すと、初老の医師はカルテを見ながら静かに、しかし諭すように言いました。「君の胃は、今、完全にストライキを起こしている状態だね。これだけ冷たいものばかり入れて、まともに動けと命令する方が酷だよ」。胃カメラの検査では幸いにも潰瘍などは見つかりませんでしたが、胃の動きが極端に悪くなっている「機能性ディスペプシア」との診断でした。その日から、私の地獄のような、しかし胃にとっては天国のような養生生活が始まりました。まず、全ての飲み物を常温の白湯に変え、食事は具なしのおかゆからスタート。回復には二週間近くかかりましたが、この一件以来、私は夏の過ごし方を根本から改めました。体の内側からの声に耳を傾けることの大切さを、あの強烈な胃痛が教えてくれたのです。

夏バテで胃腸機能が著しく低下している時、何をどのように口にするかは、回復への道を左右する最も重要な要素です。胃に負担をかけずに必要な栄養を補給し、弱った消化器系を優しくサポートするための食事と飲み物の選び方には、いくつかの鉄則があります。まず大原則として、冷たいものは厳禁です。胃腸を直接冷やすことは、消化酵素の働きを鈍らせ、血行を悪化させる最大の原因となります。飲み物は、キンキンに冷えた麦茶やジュースではなく、人肌程度の白湯や常温の水、カフェインを含まないほうじ茶やルイボスティーを選びましょう。食事の基本は、とにかく「消化が良いこと」に尽きます。主食は、水分を多く含み、柔らかく調理されたおかゆや、よく煮込んだうどんが最適です。パンや白米は、よく噛まないと消化に負担がかかるため、症状が強い時は避けた方が賢明です。タンパク質の補給も、荒れた胃粘膜の修復には不可欠ですが、食材選びが重要になります。脂肪分の多い肉類は避け、鶏のささみや胸肉、豆腐、卵、白身魚（タラやカレイなど）といった、低脂肪で高タンパクな食材を選びましょう。調理法は、煮る、蒸す、茹でるといった油を使わない方法が鉄則です。野菜は、消化酵素を含む大根やカブ、胃粘膜を保護するビタミンUが豊富なキャベツ、ネバネバ成分が胃壁を守るオクラや山芋などがおすすめです。ただし、食物繊維が多いゴボウやキノコ類は、弱った胃には負担になることがあるため注意が必要です。そして、食べ方も重要です。一度にたくさん食べる「ドカ食い」は絶対に避け、消化の良いものを少量ずつ、数回に分けて食べる「分食」を心がけましょう。胃が痛い時は無理に食べる必要はありませんが、これらの原則を守りながら、自分の胃と対話するように、優しく栄養を届けてあげることが回復への近道です。