めばちこ(麦粒腫)の原因として、最も代表的な細菌が「黄色ブドウ球菌」です。この細菌の名前を聞くと、食中毒の原因菌として、何か特別な、悪い菌というイメージを持つかもしれませんが、実は、私たちの体にとって非常に身近な存在です。黄色ブドウ球菌は、健康な人の皮膚の表面、鼻の中(鼻腔)、喉、髪の毛など、様々な場所に生息している「常在菌」の一種なのです。常在菌とは、病気を引き起こすことなく、私たちの体と共存している微生物のことで、皮膚のバリア機能の一部を担っている側面もあります。通常、体の免疫力が正常に働いている限り、この黄色ブドウ球菌がおとなしくしているため、何の問題も起こりません。しかし、ひとたび体のバランスが崩れると、この身近な菌が、途端に病原性を発揮し、様々な感染症を引き起こす「日和見感染(ひよりみかんせん)」の原因菌へと変貌します。めばちこは、まさにこの日和見感染の典型例です。例えば、過労やストレス、睡眠不足などで体の免疫力が低下すると、黄色ブドウ球菌の増殖を抑える力が弱まります。また、汚れた手で目をこすると、手に付着していた大量の菌が、まぶたの皮脂腺や汗腺といった、無防備な場所に侵入する機会を与えてしまいます。これらの腺は、菌にとって、栄養豊富で増殖しやすい、格好の住処となります。ひとたび腺の中で増殖を始めた黄色ブドウ球菌は、毒素を産生し、周囲の組織に炎症を引き起こします。これが、めばちこの赤み、腫れ、痛みの正体です。そして、菌と戦った白血球の死骸などが溜まり、「膿」を形成するのです。さらに、黄色ブドウ球菌は、薬剤耐性を獲得しやすいという厄介な性質も持っています。そのため、めばちこの治療には、この菌に有効な抗菌薬(抗生物質)の点眼薬や軟膏、内服薬が用いられます。めばちこの原因を正しく理解するということは、「特別な菌に感染した」と恐れるのではなく、「身近な菌に、悪さをする隙を与えてしまった」と考えることです。日々の体調管理と衛生習慣がいかに大切であるかを、この小さな常在菌が教えてくれているのです。
めばちこの原因菌「黄色ブドウ球菌」とは?